AIを活用したビジネスコンサルティングを行っているナオキです。
日々の業務効率化や新しいビジネスのヒントを探して、AIの最新情報にアンテナを張っている方も多いのではないでしょうか。生成AIの進化は目覚ましく、次々と新しいサービスが登場していますよね。しかし、その華やかなニュースの裏側で、今、AIの世界地図を塗り替えるほどの大きな地殻変動が起きていることをご存知でしょうか。
今回は、いつもより少し視野を広げて、AI開発における世界の勢力図の変化についてお話ししたいと思います。この変化は、私たち個人事業主や中小企業の未来にも決して無関係ではありません。ぜひ最後までお付き合いください。
驚きのニュース、オープンソースAIで中国がトップに
先日、AI業界を驚かせる調査結果が発表されました。それは、オープンソースAIの市場シェアで、ついに中国がアメリカを追い抜き、世界トップに立ったというニュースです。
オープンソースAIとは、AIを作るための「設計図」や「ソースコード」がインターネット上で公開されていて、誰でも自由に利用したり、改良したりできるAI技術のことです。私たちの多くが普段使っているスマートフォンの基本ソフトなども、オープンソースの技術が基盤になっています。
これまでのAI業界は、グーグルやマイクロソフトといったアメリカの巨大IT企業が牽引してきました。「AIといえばアメリカ」というのが、いわば常識だったわけです。しかし、最新の調査では、オープンソースAIの市場シェアは中国が約17パーセント、アメリカが約16%と、数値の上で明確な逆転が起きたのです。これは、単なる一時的な現象ではなく、AI開発の大きな潮流が変わりつつあることを示しています。
中国AI躍進を支える力強い存在
では、なぜ中国はこれほど急速にシェアを伸ばすことができたのでしょうか。その背景には、いくつかの重要な要因があります。
新星のごとく現れた高性能AIモデル
この勢いを力強く引っ張っているのが、中国発の高性能なAIモデルです。特に注目されているのが「DeepSeek」や、巨大IT企業アリババが開発した「Qwen」といったモデルたちです。
これらのAIは、文章の作成や要約、プログラムコードの生成といった様々なタスクで、非常に高い性能を発揮します。そして何より重要なのは、これらの高性能なモデルが「オープンソース」として公開されている点です。世界中の開発者が自由にアクセスし、自分のサービスに組み込んだり、さらに改良を加えたりできるため、その技術は爆発的なスピードで広まっていきます。
私自身もクライアントの業務効率化ツールを検討する際、最近はこうした中国発のAIモデルをテストする機会が増えました。正直なところ、特定の専門分野では、これまで主流だったアメリカ製のAIを上回る性能を見せることもあり、その進化の速さには驚かされるばかりです。
逆境がバネになった独自の開発力
実は、この中国の躍進には少し皮肉な背景があります。近年、アメリカは安全保障上の理由から、高性能な半導体などの先端技術が中国へ輸出されることを厳しく規制してきました。AIの開発には高性能な半導体が不可欠ですから、これは中国にとって大きな痛手となるはずでした。
ところが、中国はこの逆境をバネにします。「手に入らないなら、自分たちで作るしかない」と、国を挙げて独自の技術開発に莫大な投資を行いました。その結果、アメリカの技術に頼らない独自のAI開発能力を急速に高めることに成功したのです。そして、その開発した技術を囲い込むのではなく、オープンソースとして世界に公開するという戦略を選びました。これは、ビジネスの世界で、強力な取引先から契約を打ち切られた会社が、一念発起して自社製品を開発したら、以前よりずっと素晴らしいものができて市場を席巻してしまった、というような話に似ているかもしれません。
開くか、閉じるか。戦略の違いが未来を変える
現在、AIの世界では大きく二つの戦略がぶつかり合っています。一つは、OpenAI社のGPT-4のように、非常に高性能だけれどもその詳しい仕組みは公開しない「クローズド」な戦略です。企業が技術を独占し、サービスとして提供することで利益を上げるモデルですね。
それに対して、中国勢が推し進めているのが、技術を広く公開する「オープン」な戦略です。この戦略の最大の狙いは、「エコシステム」を築くことにあります。
エコシステムとは、ある技術を中心に、多くの開発者や企業が集まり、お互いに協力し合いながら新しいサービスやアプリケーションを生み出していく、健全な循環環境のことです。設計図を公開することで、世界中から才能ある開発者が集まり、その技術を土台にして、私たちが驚くような新しいツールやサービスが次々と生まれてくるのです。中国は、このオープンソース戦略によって、世界中の開発者を味方につけ、AIの生態系そのものを自分たちの周りに作り上げようとしているのかもしれません。
この変化は私たちにどう関係するのか
さて、ここまで世界の大きな動きについてお話ししてきましたが、この変化は日本でビジネスを行う私たちにどう関係するのでしょうか。
これは大きなチャンスだと私は考えています。まず、利用できるAIの選択肢が格段に増えます。これまではアメリカの特定企業のサービスに頼ることが多かったかもしれませんが、今後は高性能で、もしかしたらより安価に利用できる中国発のAIを活用したツールが登場してくるでしょう。
例えば、顧客管理やSNSの投稿文作成、市場調査のデータ分析など、私たちが日々行っている業務に、より最適なAIツールを選べるようになります。特定のサービスに依存するリスクも分散できますし、競争が生まれれば、サービスの価格が下がったり、品質が向上したりすることも期待できます。
もちろん、新しい技術を利用する際には、データの取り扱いやセキュリティなど、注意すべき点もあります。しかし、変化の波を正しく理解し、その流れに乗ることができれば、ビジネスを大きく飛躍させる追い風になるはずです。皆さんのビジネスでは、AIをどのように活用できる可能性があるでしょうか。一度、新しい選択肢も視野に入れて考えてみてはいかがでしょうか。
まとめ:これからのAIトレンドを追いかけるために
今回は、AIの世界勢力図における中国の台頭という、大きなテーマについてお話ししました。
ポイントをまとめると、
①オープンソースAIの分野で中国がアメリカを抜き、トップシェアを獲得したこと。
②米国の輸出規制が、逆に中国の独自技術開発を加速させる一因となった可能性があること。
③中国のオープンソース戦略は、今後のAIの「エコシステム」全体に大きな影響を与える可能性があること。
これからの時代、ビジネスの舵取りをしていく上で、アメリカのシリコンバレーの動向だけを追っていては、世界の半分しか見ていないことになるかもしれません。中国で今、何が起きているのか。そこからどんな新しい技術やサービスが生まれようとしているのか。そうした情報にもアンテナを張っておくことが、競争の激しい市場で一歩先を行くための鍵となります。
私も引き続き、皆さんのビジネスに役立つ国内外の最新情報をお届けしていきますので、ぜひ参考にしていただけると嬉しいです。
監修者:岡田 直記
AIコンサルント / 「ナオキのAI研究所」所長
企業のAI活用を支援するAIコンサルタント。セミナーや法人研修、個人指導などを通じ、これまでに延べ100名以上へAI活用の指導実績を持つ。現在は、主に中小企業を対象としたAI顧問として、業務効率化や生産性向上を実現するための戦略立案からツール導入までをサポート。また、個人向けには月額制の「AI家庭教師」サービスを展開し、実践的なAIスキルの習得を支援している。
自身の「元大手営業マンでスキル0から独立した」という異色の経歴を活かし、ビジネスの現場目線と最新のAI知識を組み合わせた、具体的で分かりやすい解説が強み。AI技術がもたらす未来の可能性を、一人でも多くの人に届けることを mission としている。

